この世界に生まれたその意味を。
と、言うことで、たった今読み終えたばかりの、フルメタ最終巻の感想をば。ちょいちょいちょいと、本文中から文章を抜粋しながら、思ったことをそのまま書いていきます。ネタばれしまくりなんで、ご注意を。
フルメタル・パニック!12 ずっと、スタンド・バイ・ミー(下) (富士見ファンタジア文庫)
- 作者: 賀東招二,四季童子
- 出版社/メーカー: 富士見書房
- 発売日: 2010/08/20
- メディア: 文庫
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『・・・優しい言葉も考えてみたが、俺は相変わらずこういう奴だ。野暮な言い方しか出来ない。だからよく聞いていろ。俺が言いたいのは、「君はもっとガッツのある女だと思っていた」ってことだ。わかるか?』
メリダ島の門番だったベヘモス三機を倒した後、宗介が全島放送でかなめに向けて最初にかけた言葉。この後も、クソ女だ、がっかりだ、大嘘つきだと不満をぶちまけます。宗介らしいw
そして、この言葉に冷徹な返しをするかなめに向かって、宗介は嘲笑と共に一言。
『おまえは彼女なんかじゃない。おまえはソフィアだ。』と。
ソフィアってのは、元祖のウィスパードで、18年前に世界への憎悪を捲きながらひどい実験の挙句に壮絶な苦しみの中で死んだ少女です。
コンソールを操作し、文字入力でたった一言『THANK YOU』と打ち込む。回線が火災でやられたのか、艦のAI《ダーナ》は返答しなかった。
彼女はその場にかがみ込み、両手をついて、埃まみれの床に口づけした。
長い、長い接吻。
死にゆく娘に、母親ができる精一杯のこと。
メリダ島のドッグに強行突入したテッサが、自分が作り出した娘であり、今まで自分を胎内で守ってくれた家でもあった、死にゆく『トゥアハー・デ・ダナン』の発令所内で。良い描写です。
幻ではない。事実だ。
宗介が死んだ。たったいま。
いやだ――いやだ、いやだ、いやだ、いやだ。
自分の心の中でソフィアと対峙するかなめ。しかし、かなめの前に広がる現実の光景は、敵兵に包囲され蜂の巣にされる寸前のテッサたち、ファウラーの《エリゴール》を道連れに自爆特攻するクルーゾー、サビーナの機体に止めを刺される寸前のマオ、そして、レナードの《ベリアル》の腕でコクピットを貫かれた宗介の《レーバテイン》と。
この左頬には、あの傷跡がない。
あの十字傷。由来を聞いたこともない、たいして目立たない十字傷。
苛烈な戦いの日々、敵対的な環境の数々によって刻まれた、奇跡のような、唯一無二のあの傷が。
彼。宗介。相良宗介。
彼を形成したのは、こんな優しい世界ではない。
戦争が彼を育てた。混沌が彼を育てた。
業火にさらされ、槌で打たれ、幾重にも鍛えられ生まれた刃紋、それが彼だ。
同じ紋様は二度と、決して作れない。
自分が知っている彼は、そこにしかいなかったのだ。
平和な女子高生として幸せな家族と暮らしながら、平凡な機械オタクの少年である《相楽宗介》と付き合うかなめ。
穏やかな幸せに包まれて、なぞった宗介の左頬。しかし、そこにいつもの傷跡は無く。
例え、どれだけ穏やかで幸福な生活の中で、傷跡の無い宗介と甘美な日々を暮らせるとしても、ずっとかなめの傍に居た《宗介》は『誰もが許せない残酷な世界』、『無慈悲な戦闘の世界』、『破壊と殺戮の跋扈する、秋霜烈日の歳月』が育てたのだと。
(できるわけがない。
絶対に許容できないことがあるとすれば。
決して受け入れられないことがあるなら。
それは彼に出会わなかったことだ。)
かなめがこの答えにたどり着いたことで、世界の修正・変容は完全に止まりました。
いやぁ、このシーンは泣きましたw よくある展開と言えるかもしれませんが、それでもね。
ヘッドセットに内蔵された無線機をつなぐ。オープン回線で待機状態に。
『どうよ、このタイミング?』
得意げな男の声。もう二度と聞けないと思っていた彼の声。
ああ、神様・・・。
『ぎりぎり間に合ったぜ。惚れ直しただろ、姐さん?』
相変わらずのふてぶてしさで、クルツ・ウェーバーがそう言った。
サビーナに最後の策も砕かれ、とどめの一撃を受けそうになったマオ機。やってくれましたよ。あの馬鹿が。
期待通りに、ソ連のカスタム狙撃機で。昨日、けんちーが期待したとおりの登場で。泣けるなぁ、クルツよ〜。もちろん、クルツこんな戦場に来れる傷じゃないですよ。少し前まで死の一歩手前だったんですから。愛の力(w)ですよ。
『・・・最悪』
無線越しに、マオが不機嫌な声で言った。
「へ?」
『男らしくソーゼツに死んだんでしょ?なにおめおめ顔出してるの?レイスの話ってこれだったのね。なるほど。なんかもう、台無し・・・』
「だ、台無し?そりゃねえだろ、俺は―――」(以下、マオにより却下)
クルツの台詞に対するマオの返し。予断ですが、クルーゾーや他の仲間たちも、テッサも、みんな、クルツと再会したときに詰まらなそうな顔で『台無し』的なこと言います。それだけ、逆にみんながクルツのことを思ってたってことですが。
でも、大丈夫、クルツとの通信を切った後、クルーゾーに通信入れたときに、マオ姐さん泣いてたみたいですから。可愛いなぁ♪
「よくわからないんだ。俺は・・・なにもかもいやになっていた。ずっと前から、なにもかもくだらなく思えて・・・。どいつもこいつもバカみたいに思えて。異常だってのは分かってる。だからまともになりたかった。まともになる方法は、これしかないと思っていた」
「・・・・・・」
「わかるか?まともになりたかったんだよ」
「それは・・・わかる」
銃口を降ろし、宗介は言った。
「俺もまともになりたい。ずっとそう思っている」
二人の間で、ようやくまともな会話が成立したような気がした。
世界の変容が停止した後。
アルに無人の特攻をしかけさせてて無事だった宗介が使い捨てのロケットランチャーで無防備な姿を晒したベリアルを撃破した後の会話。
同じ一人の女性を想い、何度も激しくぶつかりあってきたにも関わらず、互いに何の興味も持てず『宿命の敵』たり得なかった二人の男。
最後の最後にほんの少しだけ互いの心が近づきかけました。
この後、基地の起爆装置に手をかけたレナードをカリーニンが撃ち殺して、世界を変容させようと画策した男は世界から退場。
レナードって本当に悪いラスボス・悪役ってイメージが弱かったんですよね。そのスタンスは最後まで変わらず・・・だからと言って、よくある実は良い奴だった的なタイプのボスでも無くて。最後の最後まで、儚いヤツでした。
「だからレナードの計画に乗ったのか?
あんたほどの男が、あんな女々しい絵空事に!」
『私を・・・無敵の男だとでも思っていたのか?』
「親父というのはそういうものだろう!?」
カリーニンがわずかに微笑んだ。
父親と呼ばれたのを楽しんでいるのかもしれない。
『どんな親父も・・・一皮剥けばこんなものだ。気付けばようやく半人前・・・』
「少佐」
『・・・イキナサイ』
最後は日本語だった。
肩を握っていた手から力が抜け、地面に落ちた。
メリダ島に核ミサイルが着弾する20分前。『最後の訓練』を終えた、宗介とカリーニンのやり取り。
戦争の中で生きてきた宗介にとって、カリーニンは確かに父親だったんでしょうね。
さんざんぐずぐずとして、うつむいたり頭を掻いたりした挙句、孝太郎はようやくカメラに向き直った。
『あー、なんだ。相良・・・すまなかった』
ばつが悪そうに、上目遣いで彼は言った。
核ミサイル着弾まであと5分。カリーニンの『イキナサイ』の言葉に促されるようにアルの元へ戻ってきた宗介。
残された時間の中で、宗介は未羅に渡されてたUSB内の映像を見ます。ファイル名は『to kana sousuke_01』。
そこに入っていたのは、三年生になった陣代高校の同級生たちがどこに居るのか分からないかなめと宗介の目に届くよう全世界に向けて配信した卒業式の案内の動画でした。
風間の進行で始まり、恭子の言葉、先生の婚約報告(相手はなんと、ふもっふで出てたあの風変わりな美術教師w)・・・。
そして、陣代高校が戦場にされ、恭子の命が危険に晒されたときに誰よりも激しく宗介を罵ったオノD。ふもっふ(短編)では誰よりも女好きでおちゃらけてた明るいオノDが、あれだけ宗介に決定的な罵倒を浴びせた時点で、宗介とかなめが平和な日常に戻れることは二度と無いと思い知らされた読者はけんちーだけじゃないんじゃないかと。
そのオノDの心からの言葉。これは大きすぎますよ。
長い動画だ。残りの時間表示を見たら、あと15分近くある。
時計を見た。
着弾まで、あと一分。
「死にたくない・・・」
心からそう思った。うわずり、搾り出すような声でつぶやいた。
「死にたく・・・ないっ」
わけがわからない。声が勝手にとぎれとぎれになる。顔が熱い。視界がにじんで、めちゃめちゃになる。もう自分でもどうにもならない。
「いやだ・・・っ俺は・・・死にたく・・・ない・・・っ」
せめてあと15分だけあの動画を・・・宗介がそう願う間にもタイムリミットは一分を切り。宗介はここに来てどれだけ、自分がかなめとともにあの学校へ帰りたかったのかに気付かされます。
しかし、レーバテインの小型TAROSは損壊。宗介の感情をアルに繋ぐ手段が失われて、核を防げる可能性のあるラムダ・ドライバを発生することは不可能だと。
あと20秒。
《ひとつ試す前に聞いておきたい。私は人間ですか、機械ですか?》
「おまえが・・・」
機械だと言うのは簡単だった。だが、もはやそうだとは言えない。こいつはそんな単純な存在ではない。
「自分で決めることだ・・・。人間はみんな・・・そうしている」
《感謝します》
あと5秒。
「なにを―――」
《一人でやってみます》
横たわったままの《レーバテイン》の周囲で、空間がぐらりと揺れた。物質の裏側の力。人間を媒介としてのみ顕れるあの力が――
0秒。
合計5.5メガトンの核弾頭が、メリダ島の上空で炸裂した。
元から他のAIとは一線を画していたアル。アーバレストの時から、ずっと宗介と共に戦ってきたアル。それがここに来て・・・。
エピローグ前、本編のラストシーンです。
「ソースケ・・・!?」
50メートルほど進んでから、トラックが急停止した。ギアの切り替わる金属音。トラックが全速力でバックしてきて、彼らの横でぴたりと停まった。
「こんなところでなにをしている?」
むっつり顔にへの字口。
四人がぞろぞろと車から降りる。
「いや・・・あんたを救出しようと・・・」
「そうか。・・・む」
後部座席から降りて来たクルツを見て、宗介が眉をひそめた。
「なんだ。生きていたのか」
「それだけかよ!?」
「台無しだな・・・」
「ひでぇ」
ということで、アルの頑張りのお陰で放射線からも身を守れて、無事だった宗介。しかし、その宗介がCIAに引き渡されて沖縄の基地で酷い目に合わされてると聞いた、マオ・クルツ・レイス・クルーゾーの4人+1チームは救出作戦へ。
と、思ったら、自力で脱走してきた宗介が目の前に。完全にいつも通りの宗介で♪
そして、やっぱりクルツに対してこの反応とw
この後、かなめが一年ぶりに自分のマンションへ戻ったり、その日学校へ行ったら、まさに卒業式で恭子やクラスメイトに囲まれて泣き通したり、そこに死んだと思ってた宗介がスーパーカブに乗って滑り込んできたりといろいろあったんですが、何もいわず、とりあえずこの一枚で。
〈良く見ると、ふもっふ(短編集)の椿くんが初長編出演してます!!〉
見たきゃ見ろ。あたしはずっとそうしたかった。彼もずっとそうしたかった。
それで全部だ、文句があるか。
互いの唇が離れ、おでこがこつんと当たってつぶやく。
「・・・放さないでね?」
「ああ」
「ずっと・・・そばにいて」
「もちろんだ」
宗介はいつものむっつり顔で、自信たっぷりにうなずいた。
「君さえいれば、武器などいらない」
[完]
クラスメイトや全校生徒が見守る中で、ラストは熱い熱い抱擁と愛の言葉を。これで良いんですよ。恥ずかし過ぎる描写ですが、厳しすぎる道を歩んできた2人のラストはこうでないと。
ビバ、ハッピーエンド!!
あー、満足しました。期待通りのハッピーエンド。
間ははしょりまくってますが、他の人物たちも補完されてましたよ。そして、あとがきによるとこの後、サイドストーリーを納めた短編集を出すかもとのことで。この後の、後日エピソードもあるかもしれないそうです。
また、長いことかかるでしょうが、楽しみに待ちましょう。
終わり!!